若い時に腱鞘炎やらをひどく患った事がきっかけで
色々と身体の使い方を研究してきた。

構造や動きの可能性を
を見つけていくうちに沢山の発見や
ブレイクスルーを経験してきた。

そんなことの積み重ねの中で多少の心得もあったので
以前はよく人のマッサージもした。
演奏家の方の演奏前と演奏後にマッサージをして
どこが凝っているのかどこに負荷がかかっているのかを
手で覚えてきた。

さてさて、
ある時、欧米人には肩こりが無いという話を聞いた。
それは文化的に生活習慣が違うからなのか?
発声や動作の違いからくるものなのか?
そういった事が音の質に関係しているのではとか色々と考えた。

しばらくして来日したミュージシャンとの仕事をさせていただいた折
相手が疲れていたのでマッサージを施した。
腕や肩を揉むと気持ちよさそうにしているし
肩はパンパンに凝って固まっている。

欧米人は肩がこらないと聞いたけど
これはどういう事?
相手にそう尋ねてみると
「そこは首の付け根という」と教えてくれた。
なるほど。確かにそこはショルダーではなかった。

唇という言葉もある。
日本では唇は赤い部分を指す。
英語のリップは赤いところの周辺のかなりの範囲も含む。
歌などでリップをコントロールする時に
当たり前に意識している範囲は違ってくる。

昔の音楽映像でUSA For AFRICA(We Are The World)というのがある。
そのリハーサルシーンでシンディー・ローパーが口のリラックス
運動をして見せているシーンがあった。
当時そのリップ全体を使った動きは見慣れない不思議な動きで印象に残った。
リップを動かすという事が僕と彼女の間で根本的に違う事がよくわかる。
こういう引っかかりや違和感はとても大切だ。

こういった事は別に英語と日本語だから起こる違いという
訳でもない。

レッスンで手首を使ってというと肘を動かす人は多い。
その人にとって手首を動かすというのは
そういう事なのだろう。
指を曲げる、握る、押さえる
一つ一つの言葉が指し示すものが思っているものと実は違っていたりする。

言葉が通じているようで実は通じていない。
分かっていると思っているからいつまでも分からない。
だから勝手に分かったと思っている。
いくら問答を重ねてもその人の枠の中に答えが収まっていないので
分かることはない。
良くある話です。

分かった時にそれまで分かっていなかったことに気が付く。
それはしょうがない。
でも分かっていなくてもちゃんと生きてこれている事実もある。
これは一番すごい事かもしれない。これは本当に大事な事。
勿論それは僕も変わらない。
だから毎日指を曲げたり触れたりすることを大切に観察している。
僕の仕事の大半はそれかもしれない。
経験上簡単には判ってもらえない事も知っているし。
初見で分かる人がいるのも知っている。
常に今より分かっていない僕が積み重ねてきて長年の仕事となっている。
分かっていないけど分かろうと日々過ごしているから
仕事が新鮮に継続されている。

そして毎日少しずつ分かるを見つけていることによって
分かっていない事に気づかされる。
そんな不思議がいっぱいで楽しい。